「京都創傷の寺子屋」について
「京都創傷(きず)の寺子屋」発足に当たって
こんにちは、この度「京都創傷(きず)の寺子屋」を発足するに当たり代表理事を務めさせて頂いております、整形外科、村上といいます。2021年3月より「NPO法人」となり、身の引き締まる思いでおります。
さて、先ずは、整形外科医の私が何故創傷を扱っているのかと言うところからお話ししたいと思います。以前の私は創傷(きず)に関しては全く関心が無く、「創は治るもの」、創の状態が悪くても「なんとかなるもの」と高をくくっていました。しかし、あるとき
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院内で多くの褥瘡、創傷が発生しているにもかかわらず、率先して診療、処置する医師が存在しない
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手術を行う外科系医師が自分で作った創(手術創)を管理できていない
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透析や動脈閉塞の患者さんの創が悪化し、最終的に切断に至る場合が多い
という現状を目の当たりにした時に、「誰かが中心となって創傷を管理しなければ」という使命感にも似た考えが湧き上がり、勉強を始めたことが創傷に足を踏み入れた第一歩でした。それ以降研鑽を積み、 現在は院内の創傷(褥瘡)委員長を任せていただけるに至りました。2015年に院内に創傷チームを立ち上げ活動を開始し、2016年5月に現在の場所への病院移転を機に「創傷外来」を開設して創傷(きず)に困っておられる患者さんの診療に当たっております。
さて、皆さんは「寺子屋」と聞いてどのようなイメージを持たれるでしょうか?現在の学習塾のイメージを持たれる方もおられるでしょうし、「読み・書き・そろばん」の様な簡単な事を手軽に学べる場所と考える方もおられると思います。成書によれば寺子屋とは「江戸時代の庶民の教育施設。僧侶・武士・神官・医者などが師となり、読み・書き・そろばんを教える場」との事です。
今回私どもが創傷の会を立ち上げるに当たり「寺子屋」という名称を選んだ理由は、高等な教育機関ではないものの、そこで基本から応用まで幅広い知識を学ぶことができ、また、医師・看護師・薬剤師・装具士など様々なスタッフが師となり教示し合える環境が「寺子屋」の存在意義と一致していると考えたためです。
私が「京都創傷(きず)の寺子屋」を立ち上げようと思ったのには大きく二つの理由があります。
先ず一つ目は「知識・技術の標準化(スタンダダイゼーション)」です。病院に入院している患者さんが転院などによって治療の場が他の施設や自宅に移った際、先方ではこれまでに行っていた処置を知らない、あるいは出来ないと言うことがよくあります。それほど難しい知識や技術を必要としないのに、これまで行ってきた処置の継続が出来ないという事を数多く経験してきた中で、先ずは地域内だけでも処置の継続が出来るように、共通言語が増えるように知識・技術を統一していけたらという思いが強くあったのです。
もう一つは「創傷」の裾野を広げたいという思いからです。創傷を扱う場所は病院だけではありません。開業医の先生で創傷に明るくない先生も居られるでしょう。訪問看護師や在宅で介護をしている方の中には褥瘡を含め創傷で困っている方も多いでしょう。そういった方にとって創傷や褥瘡は厄介物以外の何物でもありません。しかし、一緒に考える場所、相談する場所、つまり寺子屋の様な場所があれば、自分一人で抱え込む必要は無くなり、厄介物が扱いやすくもなり得ます。
幸い私の周りには私と同じ思い、志を持った人達が居りましたので、少人数にはなりますが、力を合わせて何か形に出来ればと考え「京都創傷(きず)の寺子屋」を立ち上げるに至りました。
個々の小さい力では実現・達成が困難なことも「同じ志」を持った人達が、その思いを集約すれば、大きな推進力となり実現出来る事も多いのです。それには沢山の方々の強い思い・志が必要なのです。お互い切磋琢磨し自らを成長させることが、延いては患者さんを含めた困っている方々の応援に繋がると考えます。創傷を「みんなで治して行きたい」という我々の思いに賛同頂ける方は「京都創傷(きず)の寺子屋」に参加して頂き、単に知識・技術だけを得るのではなく、多くの人達と繋がって各人のコミュニティを広げて頂ければ大変嬉しく思います。
NPO法人 京都創傷(きず)の寺子屋 代表理事
整形外科 村上 啓司
き ず